編集後記

  芸術は、突然変異のように生成出現するものではない。
 突然変異のように見えるものも多くはそこに至る長い潜伏期間があって、その長い期間ひたすらに同じ所作、無価値な所為が営々と積み上げられ、ゆるゆるのヤスリで研磨されていっていつのまにか細密な核が研ぎだされる、あるいは、絶妙のバランスが形成される、そんなマイスターとなるプロセスがある。
 蕨を一本ずつ写生し続けて百本写生したら、そのうちの三本がマイスターな仕事となるらしい。
 業である。「ぎょう」でも「ごう」でもある。
 そういうことを倦むことなく継続できる内的なエネルギーは何か、外部環境条件は何か。
 野球選手が素振りを繰り返す、バレエ・ダンサーがプリエを欠かさない、マイスターな修業のプロセスがある。筋肉を組成する細胞の一つ一つにまで記憶させるような緊密な神経連携ができるのだろう。
 倦んではいけない。
 人間は、犀のように不器用な動物だ。(壱)


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