編集後記

 本当に地球温暖化が進んでいるのかと思われるほど、この冬は寒い。職場の中庭には大きな噴水があり、毎朝のように氷が張っている。たいていは指で軽く押すとすぐにパリンと割れるのだが、コツコツと叩いても、ヒビさえはいらない程厚く張っている日もある。
 思えば、昨夏はすこぶる暑かった。その猛暑の後の厳寒。軟弱な身なので、何事もほどほどにしてほしいと思うのだが、なかなかそうもいかない。この号が出るころには、昨年の十倍の量と予想されている花粉に、苦しめられているのだろうか。
 先日のこと、朝起きて窓を開けたら景色が一変していた。あたり一面の雪景色に子どもたちは歓声をあげていたけれど、出勤する身としては喜んでばかりではいられない。いつも使っている車を家に置いて、電車とバスを乗り継ぎ、バス停からよたよたと雪道を歩いて職場に向かう。凍結した道で転びかけて、かろうじて道脇の建物の門柱につかまり体勢をたて直す。ふと目をやると、門扉の横にビニールでコーティングされた張り紙がしてあった。そこには、様々な子どもの字体で「タイガーマスクさま、ランドセルをありがとうございました」「あたらしいノートやえんぴつをもらって、うれしかったです」などの寄せ書きがしてあった。その建物は、児童養護施設であるようだった。ひりひりするような寒さの中、熱いスープを飲んだように、お腹の中がほわっと温かくなった。全国に、年齢性別も様々なタイガーマスクが、出現している。
 降り続く雪の中、そろそろと目的地に向かい歩を進める。住宅街の間を通っていくと、あちらこちらの家の前に、様々な大きさの雪だるまが並んでいた。葉っぱや石や南天の実で目鼻を付けられているそれらは、どれもニコニコと嬉しそうに笑っている小さな子どものように見えた。果たして、タイガーマスクへのメッセージを見た直後だから、そのように見えたのか。それとも雪だるまを作った子供たちの想いが、表れているのか。
 帰り道、小さな雪だるまたちは溶けてしまっていたけれど、溶けずに残っているものは確かに存在しているようだ。
 さて今号は、作者の年齢も性別も様々に、個性が光る四作である。果たして読み手の心に、どのようなあかりを灯してくれるのだろうか。
                   (S)
 
 


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