先日、口づてにちょっといいインド料理店があると聞き家族で出かけた。家から自転車なら十四、五分で着く私鉄の小さな駅前にある店は、昼のランチタイムを過ぎているにもかかわらず、混んでいた。
案内された席につくや、本物のインド人のマスター(この言い方も変だが)が現れて注文をきく。「マスターなかなかの繁盛でんなぁ」と言えば「ありがとうございます」とにこやかに応えた。
異境にあって商売を成功させるのは、並大抵のものではないだろう。そのにこやかな笑顔の裏の、秘められた厳しさを想像する。
出された料理を前にして、娘などは、これは本格的なインド料理だ、などとしたり顔で言うが、インドへ行ったことのない私には、そんな褒め言葉は言えない。
もっとも、小説ならしたり顔で、未知の世界を語れるというものだ。
さて今号は、創刊当時からの同人で熟練のT氏、最近は、ますます磨きがかかってきた中堅のIさん、同人になってまだピッカピカのTYさん、それぞれ味わいもコクも違う作品を、とくとご賞味いただきたい。 (林)
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