編集後記

  今年は源氏物語がこの世にその存在を記されてから一千年になるという。
テレビもパソコンも電話も自動車もない生活を送ることができるなんて、もう同じ人間とは思えない。しかし、源氏物語を読むと人間っていつの時代も似たようなことを考えているんだなとしみじみ感じる。
愛する人に受け入れてもらいたい。疎まれることが恨めしい。人より抜きん出たい。親の期待が重い。子供の行く末が心配だ。世間体が気になる……こんな感情は文明が発達して生活様式が変化しても変わらないらしい。そして、それを文字で表そうという行為も一千年経っても変わらない。紙が高価でなかなか手に入らなかった時代に比べ、今ではパソコンや携帯電話を使って容易に日記や小説を書く人のなんと多いことか。それらの文章のいくつが一千年もの時の流れに耐えることができるのだろう。
いや、紫式部だって一千年後の人々に読んでもらおうと思って書いていたわけじゃないだろう。ただ自分の胸に湧き起こる思いを文字に残さずにはいられなかった。そして、文字になった思いが共感をよんだだけなのだろう。
さて、今回の作者、せるの紫式部たちはどんな胸の内を見せどんな共感を与えてくれるのか。楽しみである。   (あ)


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