編集後記

  編集後記

 インターネットの「こちら側」「あちら側」という言い回しがある。

 現実・現在・実体サイドを「こちら側」といい、インターネット・ウェブでのデータの流通・編集のシステムを通じて新たに創出されたサイドを「あちら側」と呼ぶ。
 手元のパソコンに装備されているオフィス・プログラムなどを活用して、データを作り、ローカルのディスクにひっそりと保存する、そのような「こちら側」で処理するコンピューティングスタイルよりも、インターネット・ウェブなどを通じて「あちら側」に置かれた情報を「あちら側」に作られた「巨大な情報発電所」で処理するほうが高性能かつ合理的だというコンセンサスが生まれつつある。
『ウェブ進化論』(梅田望夫著・ちくま新書)は、このあたりの変化イコール進化を説明してくれている。

・情報を処理する機能をインターネットの「こちら側」と「あちら側」のどちらに持つべきものなのか(59頁)
・「あちら側」ですべてをやって「こちら側」を軽くする……(58頁)
・「こちら側」から提供された情報が「あちら側」で共有され、処理されることで「情報自身が淘汰を起こす」(85頁)

 ウェブの進化を牽引するのはグーグルで、インターネットテキスト検索が高度化することで、こちら側からの情報発信が、必要とする人に直結する。必要とする人にピンポイントで情報が提供されることで、新しい広告の媒体となる。だれもが提供する情報の広告媒体となることができ、この結果、あちら側への情報提供の、提供する価値に応じて富が分配されるというシステムが確立された。しかも絶対的な数値化スコア化が可能であるという、機会平等な世界が形成されている。
 個人が運営するブログにのせるアドセンス(グーグルの提供する広告)のクリックの数でブログの価値が数値化され、価値に応じ「印税」が入手できる。
 あるいは、金銭の獲得に代わって、共感の獲得というステージもある。たとえば、2チャンネル、電車男は衝撃的なクリエイションだった。他者からのコメントにより共鳴や賞賛をいただくことができる。他者たちも共感を共有する。

「あちら側」で構築されつつある新しい装置型の舞台は、人の生き死にの問題にはつながらないが、たとえば格差社会化といった現実の不安をかかえる「こちら側」に対して、「あちら側」または<向こう側>の関係は、比較できるかもしれないと、奥野氏による日野啓三<向こう側>に関する評論を読んでいて思った。(壱)

 


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