編集後記

 ビール会社のキャンペーンで、缶ビールについているシールを集めると枚数に応じて賞品が当たるというのがあった。どうせ当たらないだろうと始めのうちは飲み終えたビールの缶を足で踏んで潰しては分別ゴミの袋に放りこんでいたが、ふと添付のはがきを見るとシール48枚で、8万円分の旅行券が当たるという。応募しないことには何も始まらない。せっせとひしゃげた缶からシールを剥がしてははがきに貼りつけていった。とはいっても2口応募するのがやっとだった。そんなに何ケースもビールを買うわけにはいかない。
 季節は春から初夏、そして夏。8万円あればどこまで行けるだろう。それとも、その辺までしか行けないのかもしれない。我が家は夫婦ふたりだが、(子どもはいるがついてくるような歳ではない)四人も五人も家族がいれば片道の旅費だけで消えてしまいそうだ。考えると微妙な金額だと思う。
 学生の頃は、そういう風潮だったこともあるがとにかく貧乏旅行一筋だった。リュックを背負って夜行列車に揺られて……。規則のやたらうるさいユースホステルに嫌気がさして駅の構内で泊まったこともあった。今では考えられないことだが。もっとも今は『トワイライトエキスプレス』という超豪華列車もあれば、『青春18きっぷ』を使う旅もある。これは意外に中高年に人気があるらしい。若い人でなくても、それなりに節約旅行を楽しむことができる。日本は南北に長い。花を追いかけたり紅葉とともに下ってくるというのもいいかもしれない。
 8万円の旅行券が当たれば、どうするだろうか。離れて暮らしているおたがいの両親をどこかに招待するか、案外、誰にも内緒で近場の温泉でのんびり。ということになるかもしれない。
 さて今回はベテラン五人が作品を書いてくださった。
 はじめて編集委員になって五つの作品を読んで、それぞれの作者の創り出す小説世界へ一足先に旅することができたのは大きな収穫だったと思う。
(齊)

 


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