編集後記

 某月某日、日曜日。天王寺近辺で編集会議。某喫茶店の、入り口から一番遠い一角に席を取る。狭いテーブルの上は、すぐに原稿の束で埋め尽くされた。それぞれの編集委員が持つ原稿には、傍線、メモ、さまざまな記号などが細かく書き込まれていて、一見、同じ原稿をコピーしたものには見えない。口火を切る。さりげなく、慎重に、そして大胆に。どこから登っても必ず頂上には着くものだ、という人もいる。登り口を間違えると、決して頂上にはたどり着かない、という人もいる。同じ山を見上げながら、とうの昔に空になったコーヒーカップにまた口をつける。伝えたいことを言葉にできないもどかしさは、小説を書いているときと同じだ。
── にいちゃん、水や。
 まだおぼこい顔のウェイターに声をかける。銀色の盆を両手で持って、コップの水を揺らせながら、ウェイターが来る。置き場のないテーブルの上で、コップを持った手をうろうろさせる。
 ようやく会議が終わる。まだあいている居酒屋にあわただしく飛び込んで、からからになったのどを麦酒で潤す。私という輪郭が、ゆっくりと闇の中に溶けていく。終電には、まだ、もう少し、ある。      (G)


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