西宮駅前ビルの二階に一室を借りて、開業している社会福祉士事務所の開け放たれた窓から、秋の到来を感じさせる涼味のまじった風が舞い込んできた。
社会福祉士事務所といっても、二十畳くらいの広さに、机とソファー、それに職業に必要な本が並んだ本棚に、ロッカーがあるだけの殺風景な部屋だった。もちろん所員を雇う余裕もない。
社会福祉士資格が、まだ世間に広く知れ渡っていないのか客の数も少なく、僕ひとりの給料を捻出するのが精一杯だった。相談内容は福祉関係だけでなく、簡単な法律相談まで及んだ。
近くの食堂から出前をしてもらった昼の弁当を、食べ終わったところにドアのノック音がした。お客様が来たのかと思い、胸が少しときめいた。ゆっくり事務所のドアが開き、入ってきたのはカルチャー教室で共に学んだ彼女だった。
淡いグリーンのスーツに身を包んだ彼女を見たとき軽い驚きを覚えた。一年余りの間に彼女の身辺に大きな変化が起こったことは、すぐにわかった。
化粧乗りの良いすべすべした白い肌が艶を失い、赤い口紅が申し訳なさそうに塗られている。若さを保っていたポニーテールの髪型が肩に無造作に落とされ、枝毛が髪の乱れをさそっていた。
(何が彼女に起こったのだ……)
神経を集中させ、彼女を観察した。 ノンフレームの眼鏡から弱い視線を僕に向け頭を軽く下げた。肩までの髪が揺れ、隠れていた白い首筋から青い血管が浮き出ている。
「お久しぶりです……」
伏し目がちに立っている彼女は、意を決したように口を開いた。
(略)
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