編集後記

 数年前から、スクーバダイビングをやっている。日本の南の海では夏に、海外では季節に関係なく潜っている。はじめは、機材もレンタルだったが、しだいにあれもこれもと買いそろえて、気がつくと一式そろっていた。
 楽しいから続くのだろうと思う。その楽しみは何なのかと考えると、海中の美しさがあげられる。マンタ、サメ、ナポレオンフィッシュをはじめとする魚たち。ギンガメアジの群れなどの巨大な渦巻き。サンゴ礁の色とりどりのひろがり。それらを見ていると、時を忘れる。  スクーバダイビングで潜る海中が、人間にとって異世界であることも、大きな魅力である。通常、人間は海中では生きていけない。禁じられた世界である。水中で長時間過ごすというのは未知の体験として楽しい。
 水中では、中性浮力が必要である。この中性浮力というのは浮くでもなく、沈むのでもなく、ダイバーを水中で安定した状態に保つことである。呼吸するたびに、わずかに上下する体のコントロール。まるで無重力の世界にいるようで面白い。
 今号の「せる」は三作品である。それぞれの作品が、書き手固有の海だとすると、読者はダイバーである。さあ、ダイビングしよう。 (尼)


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