編集後記

 実家に自民党総裁選挙投票用の往復葉書が送られてきた。祖父、祖母、母宛に三通も届いた。家族全員心当たりがない。党員党友ではないし、もちろん党費も払っていない。しかも祖父は十年以上も前に死んでいる。自民党も何を勘違いしたのかと思っていたら、ごていねいに「小渕恵三をよろしく」という電話が二回もかかってきた。以前は党員だったのかもしれないが、祖父が死んでいるのではっきりしたことは分からない。たとえそうだったとしても古い古い名簿から無作為に選んで投票を依頼してきたのだろうか。 もう十五年以上前のことだが、選挙事務所でアルバイトをしたことがある。名簿が渡され、順番に演説会の案内や投票依頼の電話をかけた。慣れないのでうまくしゃべれない。相手に笑われる。こっちも笑ってごまかす。田舎の県議会議員選挙だったのでわりとのんびりしていたが、その時、名簿は極秘だから、と念を押された。名前の横に○や△や×をつけて何度もかけ直した記憶がある。 「せる」には選挙も派閥もポストも存在しない。あたりまえだ。十五人程度しかいないのだから。でも三人寄れば派閥ができるというから、この先は分からないぞ。文学観の違いにより少数派閥乱立。主導権争い激化。収拾困難。次号無期延期。なんてことには……ならないならない。だってもう五十号を越えてしまったんだから、いまさらそんな。 編集委員は会員が順番に受け持つことになっている。活字になる前に一度目を通して意見を述べ、書き直しの参考にしてもらう。これはいい方法だ。しかしながら、編集会議が終わってからもながながと居酒屋あたりで文学の話をしていると、終電車に乗り遅れてしまうというおまけがついてくる。仕方なく夜明けまでやっているファミリーレストランで一夜を明かす。これは文学修業とは何の関係もない。眠いし、だるいし、アルコールがほしくなるし、話し相手はいないし。ああ。 今回は骨太の二作が掲載されている。  (フ)

 




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