編集後記

 予期せぬことは、たいてい突然やってくる 頭部のMRIをとることになったのは、今年の夏のことだった。脳梗塞の疑いという文字を見て、待合室で自分の体を抱くようにして腕をさすっていたら、寒いですかと看護師に尋ねられた。うだるように暑い日だったけれど、室内の空調は程よかった。

  事前のチェック用紙に目を通す。入れ墨は入っていませんかの質問に、背中の唐獅子牡丹が鮮やかさを増したような気がした、なんてことはなく、備考欄にアートメイクのアイラインと書き記す。 何かあったらボタンを押してくださいねと言われて、何かあってからで間に合うのかと思いながらも、軽く頷いた。

  検査中は音楽を流しましょうかと言われたが、断った。不安の中にも時々好奇心が顔をのぞかせる。あの大きなカプセルに入っていくのはどんな感じなんだろう。閉所恐怖症の人はどうするのかといらぬことを考えたりもする。 ヘッドフォンを付けて仰向けに寝かされ、いよいよカプセルの中に入っていく直前に、目を閉じてくださいと言われて、少し残念な気持ちになった。 検査が始まるまでは大丈夫だろうと、薄目を開けると白い天井が目の前に見えているだけで、特にどうということもなく、すぐに目を閉じた。 ヘッドフォンをしていても、ガーガーと大きな音が絶えず聞こえるので、遮音をしていなければかなりの音量なのだろう。 検査結果がいいものであるよう祈りながら、ただ身を委ねていると、慣れというのは恐ろしいもので、この騒音の中、なんと眠くなってきた。 検査時間は、十分から十五分ぐらいだったろうか。最後のほうは、ウトウトしていたので、どれぐらい時間が経ったのか定かではない。 二、三日後に編集会議の予定があったので、もしかすると病院からZoom参加になるのか、それさえ無理なら誰かに代わってもらうのか、いやでも急すぎるし、今から変更は無理だろうしと逡巡しながら、結果を待っていた。念のため、入院の準備に着替えや今回の三作の原稿を持参していたが、ありがたいことに結果は異状なし、安堵して帰途につき、その週末の編集会議にも何事もなかったように参加した。 今号が出るころには木枯らしも吹き始め、暑かった夏は遠い記憶になっているのだろう。 個性が光る三作品、お楽しみいただきたい。  (S)