三十代の女性が、婚姻届をだしたと郵便で知らせてきた。亡くなった知人の娘である。人には恵まれてきたが教育の環境が整えられず、大きなプレッシャーの中で生きている。写真が同封されていた。日付は、五月五日。新婦は足元を隠す白の上下に薄いパープルの長いショールを掛けている。腕には、くすんだ黄色っぽい花のついた雑草をおもわせる大きな束。寄り添う新郎は新婦より少し長身で、濃紺の上下にトップの高い帽子、ストライプのシャツ。絵になっている。場所は背景から察するに、公園の巨木の下。張った根で地面はでこぼこしている。
一筆箋が添えられていた。「仕事も減り、不安、恐れも多くある時代ではありますが、この情けない国のような生き方をしてはいけないと感じます」。コロナの前には戻りたくないのです、ともあった。
新聞に、八月の三十代以下の女性の自殺者数が前年同月に比べ74%増え、十代は昨年同期の3.6倍にも上がる、と報道されていた。女性の方が家族やパートナーなど身近な関係で追い詰められる傾向にある、と記事が続く。 人出が賑やかになった先日、私は特急電車で京都に向かっていた。前に立つ二人の女性が小声で話している。
「元ダンナの両親が生きているかどうかも知らないわ」というくだりから、大学生の息子の父親で元夫の消息に話が移っていく。
「タイにいるらしいのよ。すべてのことに前向き。私にはそれがカッコいいと思えたんやね。若気の至りやわ。家庭は持てないひとやけどタイでまた結婚してるかも。すでに子供が六人もいるのに」
「コロナ、だいじょうぶ?」
「もう死んでるかもしれないね」
私はきれいな髪色の二人が次の駅で降りて行くのを目の端で見送った。そしてタイにいるという彼女の元夫が生き抜いてくれることを願った。人が死ぬのはもうたくさんなのだ。
今回の編集委員会はリモートで行われ、例会はリモート参加も可になっている。参加者総数が今までになく増え、退室時間が迫っても発言が続く。
外部との接触を最小限にしてコロナ感染を防がねばならない職種の従事者だけでなく、参加したいが遠方であるとか、育児で出かけるのがままならないなど、リモート参加者の事情は様ざまだが、何年か先に国内でのコロナ感染が落ち着く日が来ても、リモート活用は根付くだろう。
私の「不用不急」の仕事は、自粛期間を解き、再開された。ヒトと仕事のできる幸せを噛みしめている。(S)