編集会議の席で小説とエッセイの違いを問われた。間接話法と直接話法の違いでは、と答えた。小説の多くは虚構の手法を用い、エッセイは概ね事実を書き連ねる。小説はそこにある物語に仮託して、言うべきことを喋る。エッセイでは、この仮託という手法が、あるいは省かれていると考えてみてもいいのではなかろうか。 個人的なことをいえば、この仮託するということが、随分と苦手になってしまった。無論言うべきことは依然あるにはあるのだが、手っ取り早く、そのまま言ってしまう方が、より身に添うようになって久しい気がする。そこには人としての粘り強さが、経年劣化を起こしてしまっているかも知れないが。
人に言いたいことがある、伝えなければならないことがある。この事は今も文芸活動の第一の命題だろう。いや文芸に限らない。あらゆる表現活動の基本中の基本だろう。
小説であろうがエッセイであろうが、人に伝えるべき何かがあることに変わりはない。 今号にも三作の小説が掲載されている。虚構という姿をとって、それぞれの作者の思いや願い、肉声が響いてくるに違いない。堪能して頂ければ幸いである。 (M)