編集後記

 
 ピコンとLINEが届く。「ランドセル、何色にするか決めました?」息子の友達のママからの質問。息子は来春小学一年生になり、近年加熱するランドセル商戦の渦に巻き込まれつつある。ピコン。「もう買っちゃいました。色は黒です」ピコン「ウチはブルーかネイビーかで悩んでて」最近のランドセルは様々だ。二十四色あったり、本体と縁取りの色が変えられたり、刺繍模様が入っていたり。牛革、馬革、人工皮革。目移りしてしまう。

 自分のことを思い返す。東京の伯母が買ってくれた赤い革のランドセル。小柄の私でも背負えるよう軽く厚みの薄いものを選んでくれた。しかし、使い続けていくにつれ革はくたびれ、色は剥げ、ペッタンコに潰れていった。小六の私は他の子のピカッとした光沢を羨み、剥げた部分を赤いサインペンでしこしこ塗っていた。今になって革の丈夫さ滑らかさ使い込まれた風味に気づく。いいモノだったに違いない。そんな私の経験が息子のランドセル選びにどう影響するだろうか。

 思えば、小説を書くという行為もそういうことなのかもしれない。過去には分からなかったことが今になって気づく。だから答えを出したい。今号の三作品も何らかの答えになっているのだろう。(T)

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