編集後記

 現在長寿世界一の日本であるが、平安時代にさかのぼると、男性の平均寿命は三十三歳、女性は二十七歳だったとか。江戸時代でも三十~四十歳。乳児の死亡率の高さのためでもあるかと思うが、あまりの短さに絶句してしまう。日本人の平均寿命が五十を越えるようになったのは、戦後のことであるらしい。

 さて、ちょうどその頃、昭和二十年代に大変人気があったという伝説のドラマ「君の名は」と同じタイトルのアニメ映画が、大ヒットしている。現在の映画は最後に句点がついており、「君の名は。」となっているのだが、国内のみならず、海外でも大層好評だとか。内容は昔のドラマとはまったく違うのだが、その映画の主題歌である「前前前世」という歌も同時に大ヒットしている。

 以前、地元で知られている占い師に見てもらった時に、あなたの前世は江戸城の大奥を警護していた女性で、前前世は平安時代の男性貴族だったと言われたことがある。なんでも、平安京の大きな池のある屋敷に住んでいたとか。雅な暮らしで和歌を詠んでいたのか。もしかすると、同人誌に参加して時々文章を読んだり書いたりしているのは、その時の影響なのか。

 現世の私は齢五十になった。平安時代の寿命も江戸時代の寿命もとうに超えている。でも、時代は平成、二年後には新しい元号に変わるというこの時代、五十歳ぐらいでちょうど折り返し地点の感覚である。

 これまでいろんな人にお世話になって生きていたので、これからの人生は人のために捧げよう。

 などという殊勝なことはまったく考えておらず、自分らしく心地よくいれればと思っている。

 そういえば、現世で関わりのある人は、前世でも関わりのあった人であるらしい。もしかすると「せる」のメンバーは、平安時代の歌会仲間かもしれないし、大奥で殿の寵愛を競っていた姫たちかもしれない。日頃の合評会や飲み会の事を思うにつれ、さぞかし賑やかで姦しい大奥であったことだろう。

 全然年齢など関係なしに、現世を楽しんでいるせるの諸先輩がたを見るにつけ、五十歳ぐらいで折り返し地点などと言うのはおこがましく思えてくる。

 長刀をもって大奥を守っていた勇ましさを思い起こし心身を鍛え、優雅に筆を走らせる代わりにパソコンのキーをたたいて小説を書くという日々を精進して送りたいが、果たしてこの号が出版される頃にはどんな毎日を過ごしているだろうか。

 今号のせるの三作品は、老いから若きまで、様々な登場人物たちがそれぞれの持ち味を発揮していて、きっと読者を楽しませてくれることだろう。

                  (S)

 

戻る