鳴雪翁来る「ホトトギス」会計の上につき話あり(正岡子規・仰臥漫録 九月十日)
過日、道後温泉にある子規記念博物館に入場した。展示物のひとつに〈俳句結社地図〉と題した大型パネルがあり明治当時の俳句結社のリストが府県ごと選択に応じ日本地図に展開してくれる。ホトトギスに名前が載せられた結社を洗い出したもので、例えば大阪のボタンを押すと、結社が九団体、俳誌四誌の名称が暗黒のパネルから白字で浮かび上がった。
結社も俳誌も、初見のものばかりで平成の現在継続しているものがあるようには思えないが、当時は同人というより〈結社〉と称されて、その単語のいかつさがどうにも俳句には似合わないように思え、結社に存亡があることとともに、ことばのはやりすたり、ニュアンスの変化が起こることを改めて覚えるところとなった。
日本国憲法に規定のある基本的人権のひとつに「結社の自由」がある。(憲法二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。)
創作同人グループの存在がこの規定に由来するというのは、いささか高邁な意義付けに思うが、時と場合によっては、権力からの統制を制御する機能にたよることがあることに異議はない。
一方、権利規定があるからといって、国家が結社の存続を保護してくれるものでないことも異議ないところである。結社が存続を妨げるリスク要因は、様々なものがある。結社の目的や規模にも応じることとなるが、子規も悩んだであろう〈会計の上〉が典型的なリスク要因となる。
同人誌というと、ひとえに情熱とか理想とかそういった主観的要素の叫びが聞こえてきそうだが、構成員の才能は一朝一夕に花開くわけではないので、ひたむきに才能の成長開花をサポートする器が持続する、すなわち、結社が維持存続することが大切で、そのための資金はじめリソース管理が重要となる。
組織のガバナンスである。
組織のガバナンスを健全に維持するには、適度な自治ルールが構成員に共有される必要がある。人的結合体である団体が一定の事業活動を行うには、人・物・情報など資源がそこでどのように展開されるのか、内外から見える・わかるようにされていなければならない。
これがため、団体には、自治規範である定款が必需のものとなる。
近代国家は、法により、一定の資格を備えた団体に、人と同じく権利能力を有さしめる法人制度を作り出した。
現在は非営利の人的結合体の法人格取得のために、NPO法人、一般社団法人の各制度が用意されているが、本会発足時には、非営利の団体に対する法人制度としては、民法の公益法人制度しかなく、これは官公庁の認可・監督のもとに置かれ、しかるべき事業規模・財政規模があることが成立の条件とされていたので、およそ公共の束縛を厭い、同好のよしみで人的結合体を形成しているだけのグループには法人格取得の道は事実上閉ざされていた。
会社・公益法人の定款にあたる内部規約を定めるところも例外的だったと思う。本会も長年月の活動継続により、ルール化された事柄があっても、成文化されたものはなかった。作成の必要性を生じていたという事情があったわけではなかったが、筆者は、大阪府庁において公益法人の全庁的調整業務に携わったことがあり、相当数の公益法人の定款作成・改定を取り扱っていたことから、手短に本会に貢献できることと思い規約案文を起草した。
案文は、社団法人のモデル定款を下書きに、成文化されていなかっただけで、すでに本会のルールとなっていたものを成文化して織り込んだ。総会の席で案文を配布し、賛同を得て、成立をみたが、法案審議のようなプロセスを経ていないので、〈たましい〉の入ったものとは言い難い。
制定後二十年以上たっていて新規会員に規約が配布されることもなく、死文化状態にある。百号を記念してこれを掲載し、特徴的な規定を見つめていただくとともに、改正しなければならない事柄などを整理してみた。
○特徴的な規定
・目的・事業
目的と事業に関する規定は、団体の存在の根本を示す重要なものである。特に目的規定は、慎重に検討したつもりである。
創作物を掲載し、世に問うのが会誌発行事業の目的ではあるが、創作物は、著者の成果であって、団体の成果ではない。相互に切磋琢磨し、創作活動を継続させる場を提供するのが本会設立存続の本質だろう。そのような認識のもと、できるだけ簡明な表現にした。
・運営委員
団体には、内部機関が置かれ、一定の負託事項を処理する。代表的な機関としては、役員があり、複数の役員により役員会が構成され、意思決定を行い、また、役員に個別の業務を委ねる。非営利法人の役員は、通例、理事と称し、理事のうちから理事長を選任し、理事長が法人を代表する。
本会の場合、理事と呼称する役職を設置するのは、いささかおこがましい感があるのは否めず、用語として委員を使用し、理事にあたる者を運営委員としている。
本規約では、運営委員は本会を代表する、と規定され、それぞれが本会を代表できることとしている。運営委員は、運用で企画担当・連絡担当・会計担当を分任している。
・編集委員
本会の本体事業である会誌の発行事業を担う機関である。
会誌発行ごと会員の中から三名を選定して、会誌の編集にあたる。編集といっても、雑誌の編集者のように一字一句赤ペンで推敲することはなく、掲載希望作を下読みして、委員それぞれの批評を述べ、作者を交え意見交換する会議(これを編集会議と呼称)が開かれる。編集会議の構成員となるのが編集委員である。
本規約には、規定していないが、編集会議の意見交換を踏まえて、書き直しを行って、掲載作品とするのが、会誌第一号からの不文律となっている。
この不文律を規約に明文化すべきかと思ったが、ルール違反が起こりうるのか、編集委員の意見を踏まえないことがルール違反と評価すべきか、はたまた、ルールとすれば違反に対する制裁措置を設けなければならないがこれに値するのか、悶着のあるところなので、明文化を見送った。
このような場合、努力義務規定とするのも対応策となるが、まだ、筆者は若かったので、中庸をとるような柔らかさに欠けた。
会員の中には、書き直しが書き直しの域をはるかに越えて、別の作品に一変させたケースも出現した。〈たましい〉の入った規定を設けていれば、抑止できえたことだろう。
・退会勧告
会の存続の障害となるような会員が存在すると、会の存続のため、当該会員を排斥する必要が生じる。このため、会員の資格に関する規定が設けられる。
一般には、除名といった排除措置の規定を設けるが、本規約では強制措置は設けず、退会勧告の勧奨的な措置に留めた。ただし、退会勧告を受けた会員は、原則として、会誌に作品を掲載することができない。(第十条)
○事情変更が生じている事項
・事務所の所在地・会費等
事務所の位置、会費等に関する規定は、実体が変更されているので、所要の手当が必要となっている。
・入会審査
現在は、会員希望者は、会員の推薦により「プレ会員」と呼ばれる地位にたち、創作二作を本会に提出して、例会での合評を受けて後、会員の承認多数を得て、会員となる。メンバーが厳選される作用があるが、あわせて、例会の活性化を図る動機もある。本規約・規程では、三名の会員で構成する入会審査会の議決を求めることとしているが、未改正状態が続いている。総会において会員の多数決を得れば、基本的には正統化される事柄であるが、現在の運用を明文化する必要がある。
◯検討すべき事項
・法人格の取得
本会発足当時は、非営利団体の法人格取得は、はなはだ困難だったが、特定非営利活動法人法が平成十年に、一般社団法人・一般財団法人法が平成二十年に施行され、現在では、本会が法人格を取得するのは、容易に実現できる。ただし、一定の労力をかけるに値する実益があるかどうか、議論があるところだろう。
・規定整備
法人制度の整備に伴い、定款の類は、精緻化・洗練化が図られている。公表実例も容易に入手できるので、種々の実例を参照して、規定を整備することは、本会の永続化の一助となる。
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グループせる規約
第一章 総則
(名称)
第一条 この会は、グループせる(「本会」という。)という。
(事務所)
第二条 本会の事務所を東大阪市におく。
(目的)
第三条 本会は、会誌の発行、合同批評その他の事業を行うことにより、会員の創作活動を相互に支援し、会員の創作環境の充実を図ることを目的とする。
(事業)
第4条 本会は、前条の目的を達成するために、次の事業を行なう。
(一)会誌「せる」の発行
(二)合同批評会、読書会等の開催
(三)その他、本会の目的を達成するために必要な事業
第二章 会員
(種別)
第五条 本会の会員は、次の二種とする。
(一)正会員 本会の目的に賛同して入会した個人
(二)名誉会員 本会に功労があった者その他の者で総会において推薦されたもの
(会費等)
第六条 正会員は、総会において別に定める会費を納入しなければならない。
2 会誌「せる」に創作を掲載する会員は、総会において別に定める発行分担金を納入しなければならない。
(入会)
第七条 正会員として入会しようとする者は、正会員一名以上の推薦を得て、別に定める審査を受けなければならない。
2 前項の審査の結果、入会を適当と認められた者は、本会に入会することができる。
(休会及び退会)
第八条 正会員は、運営委員会に申し出て、任意に休会又は退会することができる。
2 正会員が次の各号のいずれかに該当するときは、退会したものとみなす。
(一)死亡したとき
(二)会費を一年以上納入しないとき
(退会勧告)
第九条 会員が本会の名誉をき損し、若しくはその設立趣旨に反する行為をしたとき又は入会を継続することにより本会の運営に著しい支障があると認めるときは、総会において総正会員の四分の三以上の議決により、その者に対し退会を勧告することができる。
(会誌への掲載資格)
第十条 休会又は退会している者若しくは前条の規定により退会勧告を受けた会員は、会誌「せる」に創作を掲載することができない。ただし、運営委員会が必要と認める場合は、その限りでない。
(既納金品の不返還)
第十一条 既納の会費その他の供出金品は、返還しない。
第三章 委員
(種類及び選任)
第十二条 本会に、次の委員をおく。
(一)運営委員 三名
(二)編集委員 三名
2 委員は、総会において選任する。
3 委員は、相互に兼ねることができる。
(運営委員会)
第十三条 運営委員は、本会を代表し、運営委員会を構成する。
2 運営委員会は、この規約において別に定める事項を決定するほか、本会の事業の企画、連絡調整、会計その他本会を運営するために必要な事務を行う。
3 運営委員の任期は、一年とする。ただし、再任を妨げない。
4 補欠による運営委員の任期は、前任者の残任期間とする。
(編集委員)
第十四条 編集委員は、合同して、会誌「せる」の編集を行う。
2 編集委員の任期は、会誌「せる」一号の編集に要する期間とする。
3 編集委員の任期は、必要があるときは臨時に編集委員を選任することができる。
第四章 総会
(総会)
第十五条 総会は、正会員をもって構成する。
2 総会は、この規約において別に定める事項のほか、本会の運営に関する重要な事項を議決する。
3 総会の議長は、総会において正会員の互選により選任する。
4 総会の議事は、この規約において別に定めるもののほか、出席正会員の過半数をもって決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。
第五章 会計
(会計)
第十六条 本会の会計年度は、毎年四月一日に始まり、翌年三月三十一日に終わる。
(会計報告)
第十七条 運営委員は、総会において決算報告を行わなければならない。
附則
1 この規約は、平成二年四月一日から実施する。
2 この規約の実施前に取り決めた会員資格の調整その他必要な経過措置は、運営委員会が定める。
附則
この規約は、平成四年一月十八日から実施する。
会費等規程
1 この規程は、規約第六条の規定に基づき必要な事項を定める。
2 会費は、年額28,000円とする。
3 会費は、年額の四分の一の額を六月、九月、十二月及び三月の各末日までに納入しなければならない。
4 発行分担金は、一ページにつき900円とする。
5 発行分担金は、発行の日から二月以内に納入しなければならない。
附則
この規程は、平成二年四月一日から実施する。
入会審査規程
1 この規程は、規約第七条第一項の規定に基づき必要な事項を定める。
2 入会審査を行うため、次に掲げる者で構成する入会審査会をおく。
(一)入会候補者を推薦する正会員 一名
(二)運営委員会の指名する正会員 二名
3 入会しようとする者は、創作一編(未発表、既発表を問わない。)を入会審査会に提出しなければならない。
4 入会の適否の決定は、入会審査会の過半数の議決による。
附則
この規程は、平成二年四月一日から実施する。