ハンモックになりたい

若林 亨


 魚の目に悩まされている。もう長い付き合いだ。魚の目にもいろいろあるがわたしのは丸くて厚くて深くて固い。足の裏でものすごくでっかい顔をしている。いつのまにか永住権を与えてしまった。きりきりと傷むこともあるしずきんずきんと傷むこともある。石ころを踏んだりすると飛び上がるほどに痛い。だからいつも底の厚い靴を履いている。靴下も厚手のものを履いている。夏でもそうだ。特に夏場になると痛みが激しくなるので要注意。立ちっぱなしの仕事をしているので一日が終わったらまともに歩けなくなっていることもある。

 もちろんあの手この手で対抗している。塗り薬貼り薬はもちろんのこと、風呂場での軽石にも力を入れている。軽石で良くなったという話を聞いた。でもいくら力強くこすっても魚の目は一向に小さくならなくて軽石ばかりが削られていくのだ。はさみで深く切り込むこともあるがこれもいっときのなぐさめにしかならない。すぐにまた盛り返してくる。

 ある日、魚の目のすぐ横にちょっと白っぽいものを見つけた。貼り薬がずれた時などに皮膚が白くなったりするのでそれなのかなと思っていたら、その白っぽいものはあれよあれよという間に固くなっていく。あっと思った時には遅かった。その新しい魚の目はすぐ横の魚の目に吸収されて地続きになってしまった。領土拡大を許してしまった。ますます世話が焼ける。そのうち足の裏が魚の目に乗っ取られてしまうんじゃないだろうか。

 母も魚の目に悩まされている。数十年来のお友達らしい。大ベテランだ。見せてもらったらカチンカチンのコチンコチン。まるでボタンがはめ込まれているようだ。我慢がならなくなったのだろう。整形外科で見てもらうというのでちょっと期待した。切ってもらうのだと思ったのだ。切ってすっきりするのなら自分もそうしようかなと。帰ってきた母の足には包帯が巻かれていた。よしと思って痛かったかと聞いたら笑っている。貼り薬の上から包帯でぐるぐる巻きにされただけらしい。しばらくそのままにしておくようにと。「しょうもないなあ」とふたりして声を合わせた。

 歩くのが良くないのだと思う。足の裏をつけなければいいのだ。足をぶらぶらさせて暮らしたい。ハンモックになりたい。

 

戻る