はじめて私はエッセイを書くことになった。小説しか書いたことがないので自由につらつらと書いたらいいのだと思っていたが、いざ書こうとなると、ああ、これ違うわ。これも違う気がする。と、いつもより文章がのらなかった。自分をさらけだすようで恥ずかしい気がしたので、小説のようなエッセイを書こうかなぁと思ったがそれなら小説を書いて一〇〇号に発表すればいいし、楽だったなぁと今、思っています。読みやすければいいけれどそうでなければもうあまり書きたくないなぁ。
ランニングにここ何年か没頭してマラソンにも挑戦したりしたが最近は区民プールで水泳を楽しんでいる。大阪市のプールの定期券を買うとたくさんの区のプールが使用できる。私は住んでいる近くの区民プールを利用するのだが、たまに飽きると気分転換にいつもとは違う区民プールを使う。
プールでは水中ウォーキングをするのだが、いま一番嫌なのが喋りかけてくるおじさんである。
おばさんも話しかけては来るのだが、後ろ向きに歩いていると、「その歩き方、意外と効くよねぇ」ぐらいで気にならない。しかしおじさんは、それだけでは終わらない。にこにこと笑みを浮かべてやたらと目が合うようにこちらに近づいてくる。
「脚、ちゃんとかかとからついて歩いているか」
「肩が左の方が落ちてるよ、もっと意識して」
「ゆっくりでいいからちゃんとかみしめて歩いて」
と、二五メートルの間に話しかけてくる。最初ははい、はいと返していたし、水中での歩き方を教えてもらってありがたいなぁと思っていたのだが、おじさんはだんだん違う話をしようとしてくる。
「最近毎日来てるね」
「いつもこの時間帯?」
面倒だなぁと思って相槌で返すと、
「ほら、もっと脚を動かさないと、お腹がへっこまないよ」と機嫌が悪くなって指導が入る。それで離れて行ってくれればいいのだが、ペースの遅い私を追い抜くことはなく、ずっと二五メートルのターンごとに「しっかり」「その調子」などといってきておじさんが疲れてプールを出るまでそれが続く。そのおじさんがプールサイドからいなくなると私も疲れてジャグジーに行く。
プールのあとのジャグジーは気持ちがいい。ぶくぶくとふく泡が一点に集中して疲れを癒す。こども水泳教室で無邪気に水に戯れている子供たちをみながら体を温めていると「ちょっとすいません」といって、おじさんがわざわざとなりに座ってくる。周りをみると隣になってこなくていいスペースがある。
「あーっ、きもちいいなぁ」と私に話しかける気持ち半分、独り言の気持ち半分でいう。私が無反応でいると、おじさんはその場所からゆっくり逃げて行く。ひとりでいたいのにこの区民プールはひとりにさせてくれない。
違う区民プールに行くことにした。
少し距離があるこの区民プールはゲイのたまり場のプールだ。屋内は何もないが屋外にあるプールは親子連れと、ゲイの人たちで占められている。屋内はまたおじさんが話しかけてくるのが嫌なのでここは屋外プールを選んだ。
太陽が照りつける下でピチピチの小さい水着を着て自分の肉体美をさらけ出し、はたまた対照的に真っ白な体格をしたぽっちゃりさんたちが楽しそうにプールサイドできゃっきゃと話している。独りで黙々と泳いだり水中ウオーキングをしている女の私など誰も興味がないので楽だ。もくもくもくもくと、ひたすらに無になって水中を歩く。頭が熱くなってきたら、ゴーグルをして泳ぐ。水の中で首を動かしていると、右の片隅に抱き合っている男たちの体がうつる。
とっても気になる。体だけみているとぽっちゃりさん二人の男の人たちだ。息継ぎをしながら顔が見えるかなぁと思っていたが、水しぶきで見えない。水中だと首から下がはっきりと見えて手を絡み合っている。
見たい、見てはいけないの繰り返し。25メートルのターンを繰り返しながら泳いでいると疲れてしまったので上がった。もうそこには二人はいなかった。ここのプールは私には興味が無いが、私のほうが興味があって他人の気分を害しかねないのでまた、そろそろ元の家の近所の区民プールに戻ろうと思った。
やっぱり戻ると、案の定指導してくるおじさんに話しかけられた。
「どないしとったんや!」
と。久々なのによく私の顔を覚えていたなあと思った。プールはきていますよ、というと、そうかぁ、時間が合わんかっただけやなぁと少し残念そうな顔をした。そこからずっと後ろに張り付いて来たり、前にいって私の水中ウォーキングの指導に熱が入る。私が、話しかけないでください、もういいです、と言えばいいだけなのだが言えない自分がよわっちい。はい、はいとそのおじさんの言われたとおりにする。
指導おじさんに、よっ、と挨拶するおじさんがいた。ええなぁ若い子連れてるなあと言った。指導おじさんはまぁな! と言った。そしてすぐ私に「ほら、肩が落ちてる」と言ってきた。プールをよく見るとおばあさんとおじいさんが仲良く会話しながら水中ウォーキングをしている。カップルかもしれないし、そうでないかもしれないが、ちらほらと何組かいた。
わたしもその中の一人なんだなぁと。
そう思うと指導おじさんもやたら話しかけてくるのが何となくわかった。ここのプールではそれがいいのだ。運動しに来ているのにこの二つの区民プールはカップルを求めている人が多い。それもいいと思うのだけれど、私は運動をしに来ているのでカップルになることを求めていない。水の中で歩きながら、怒られるように指導されながら、疲れてしまったので指導おじさんに挨拶することなくプールから上がった。体が重たく感じたのでジャグジーに行って温まろうとしたら、ジャグジーで話しかけてくるおじさんがいたのでそこに入ることなく個室のシャワーに入って体を温めた。
ストレス発散のための運動が違うストレスを発生してしまった。
他にいい運動、ないかなぁ。